[開発ストーリー]福岡市動植物園

 
この記事はカジワラブランディング株式会社代表である梶原道生が今まで手がけてきたロゴやその他制作物の開発までに至る考え方や工程をインタビュー形式で発信する連載シリーズです。
今回は、福岡市民なら一度は行ったことがある福岡市動植物園のロゴを2年前にリニューアルした際のお話を伺いました。
(インタビュアー:カジブラ古賀)

 

旧ロゴが抱えていた2つのボトルネック

 

―福岡市動植物園のロゴは、市内に住んでいると地下鉄やその他公共の場で拝見します。園の最寄駅である薬院大通駅で朝降りると小学校の生徒たちが集まって動植物園に行こうとしている姿をよく目にします。こちらのご依頼はどのような経緯で来たんですか?

梶原道生(以下梶原):平成30年10月20日、福岡市動物園の新エントランス施設がオープンしたのがきっかけです。これまでのロゴの課題に関してのご相談として、僕にお話が来たという経緯です。
1つ目は「動物園のロゴしかなく、動植物園2つをグループ化したロゴがない」という課題。当時、園のロゴは動物園しかなく、植物園や両方の園の決まったロゴはありませんでした。
そのため、掲載媒体によってイメージが左右され、全体で統一イメージを図ることが難しかったり、双方を結びつける共通項がない現状がありました。
2つ目は「動物園のアイコンでもあるゾウが現在おらず、見ることができない」ということ。
動物園のロゴにも描かれていたアジアゾウの「はなこ」は平成29年9月27日に残念ながら亡くなってしまいました。それ以来、福岡市動物園ではゾウを見ることはできません。スタッフユニフォームの背中にもロゴが大きく描かれており、様々な動物のシルエットの中の映し出されるはなこの残像は、スタッフにとっても精神的なボトルネックになっていました。

 
以前の動物園ロゴマーク。今は亡きはなこのシルエットがある。植物園や2つの園合わせてを指すマークはない。
 

―動物園の顔でもあったはなこがいなくなったことで、ロゴマークの機能面にも影響が出ていたんですね…
そのような問題点をどのように解消したのですか?

梶原:動物園全体がこれからの未来へ進むためにも、ロゴに関するボトルネックが解消できるよう、特に「機能的で使いやすい」を一番の軸に構築しました。
問題解決の考え方で「成果=可能性-障害要素」というものがあります。ここで言う「障害要素」とは「全体として使いにくい」ということです。では、どのようにすれば使いやすいか。その手法の1つが「モジュール化」です。規格化した部分と交換可能な部分を分けることで、共通性と独立性が両立できる機能のことを指します。
1つ目の課題を解消すべく、動物園と植物園の共通性を考えたときに浮かんだのが、「花」と「ライオンの顔」でした。
花・ライオン両方のアウトラインとなるフレームを描き、その上でライオンの中の表情や手足の部分だけ交換しパターンを展開します。そうすることで、フレームはどこに行っても同じですから共通要素が発生します。
しかも手書きラフで描くような素朴な線で構築すればわかりやすくて可愛い。子供も大人も一発でわかる。これはグレートなアイデアが浮かんだぞ!と喜びました(笑)ちなみにライオンは繁殖性が高く、ゾウのように居なくなるリスクは低いそうなので、2つ目の課題も解決できる上にアイコンの動物としてもふさわしい。最適のモチーフでした。

 
梶原のロゴアイデアラフ。共通のアウトラインで揃え、表情や体を変えてパターンを展開している。
 

梶原:ロゴの手書きラフは、Annolabo http://www.annolab.com/に所属するアニメーションディレクターの宇佐美毅さんに仕上げていただきました。宇佐美さんは園内の動物情報館の体験型展示物のアニメーションや、福岡市科学館の壁画のイラストも手掛けており、それと同じようなワクワクする線を彼ならきっと描いてくれると期待してお願いしました。
そうして上がってきた宇佐美さんのイラストは期待以上のもので、文句なしの一発OKを出しました。イラストを見るたびとてもワクワクして(笑)これで、今まで足かせだったロゴの課題は解消されると思い、その後のロゴタイプとの組み合わせや展開もスムーズにいくと思いました。

梶原:そこから宇佐美さんのイラストをさらに活かせるよう、ロゴタイプ用の和文・欧文フォントをイラストとの相性を考えながら選択していきました。
僕はロゴタイプに使用するフォントを選択するとき、数あるフォントの中から実際に使用されるシーンをイメージしながら、どの環境でも馴染むように違和感なく調和のとれるフォントを選びます。
僕がいつも大事にしていることですが、とにかく一般客になったつもりで考えることが重要です。
もし、エントランスのサインとして見かけたらどうか?ユニフォームや売店のTシャツ、トートバックになったら欲しくなるなぁ…缶バッチにもなったらみんなに配れるなぁ…とか。
そう考えると、どの世代にも親しまれるように、さらに天神から歩いて向かえる場所なのでオシャレなイメージも残したい。
そうやって、細部まで注視して考える「虫の目」と俯瞰で観察する「鳥の目」を頭の中で往復しながら、適応力のあるバランスのとれたフォントを選択しまし、ロゴタイプを作成しました。
文字はスタイルや文化様式から生まれたコミュニケーションツールなので、環境・シーン・対象者によって、適切かどうかが変わってきます。
つまり、ロゴの見直しとは、「記号とメッセージを関係性の条件に応じて選択肢、最適解を導くこと」ということです。
見てピンとくる記号(=ビジュアル)と読んで理解できる言語(=メッセージ)を最適に組み合わせた結果がロゴとして完成します。
福岡市動植物園の全体を表す黄色いライオン顔のロゴマーク。動物園を表すライオンマーク。植物園を表すお花のマーク。
それぞれの施設機能マークができて、機能とサービスの接点の顔として”感じよく”迎えてくれるロゴになりました。
見る・読むの機能が一体になると、なんでもどこでも使いやすい万能なロゴとなります。これで元のロゴの障害要素は、解消することができました。

来場者の気分を上げるサインとは?

 

―じゃあこれで全て完成!という感じですか?

梶原:とはいかず、次の課題が出てきました。動物園と植物園の誘導サインです。
サインとは、人々の行動を補助する目的として案内や場所の情報などを具体的な文字や絵や矢印で分かりやすく進行方向を表示したものです。
広い園内では、場所がわからず迷ってしまうのはストレスになります。来場者がストレスを感じると次回来てくれず、来店客数の減少に繋がります。
逆に言えば、誘導サインが来場者を補助できていれば、より来場者の活発な行動を促すことも可能ということです。
そうやって、サインが明確かつ誘導の役割を果たすために「歩いていて無意識に楽しくなる」「次へ進みたくなる」「スキップするぐらい軽やかな気分で歩いていたら、気づけば園内を全て巡っていた」「けど疲れてないぐらい楽しかった」と思えるような誘導サインをイメージして制作しました。
一般的には、誘導サインは公共の場で使用されるパターンが多いため、機能に従うことを最優先とし、ピクトグラムは堅苦しいことが多いのですが、今回はサインの必要役割である施設環境条件だけではなく、プラス来店客を増やすという効果を加える必要がありました。
そのためにはユーモアをサインに盛り込むことが効果的です。
そうすることで、見るこどもがほっこりし、気分が軽くなる効果があります。こどもが喜ぶと親も嬉しいので、こどもにつられてどんどん先に進んで行く、という相乗効果も見込めます。 そうやって出来上がったサインですが、動物園の矢印は、おさるのジョージをイメージした手の矢印。植物園は、葉っぱの形をした矢印になりました。同じ矢印でも意味やテイストを変えることで機能と情緒を持たせることができます。

 
左:以前の園内案内サイン 右:現在の園内案内サイン
 
 

梶原:また、このロゴマークはリーフレットなどにも使用され、展開されました。

 
 
 

―そのような経緯で完成したロゴマークとサイン類ですが、変更後はどのような反応がありますか?

梶原:どうやら来場者も増えたそうで、SNSを見るとチケットやパンフレットなどロゴマークの入ったものと一緒に写真を撮り、アップしてくれる方もいますね。

―確かに土日の動植物園にはたくさんのファミリーが訪れる姿をよく見かけます。今ではみんなに愛される動植物園のアイコンですね!